緑内障に対する、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)

緑内障(りょくないしょう)で、目薬や内服薬で視野の悪化が止められない患者さんへの治療は、以前は手術しかありませんでした。が、緑内障の患者さんにとって朗報となる、画期的な新しい治療法ができました。それが選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty 略してSLT)です。

西伊豆眼科クリニック トップページへ


左は、西伊豆眼科クリニックで使っている、ELLEX社製 SLTです。今までの眼科機器からは考えられないぐらい垢抜けていてCOOLな外観が特徴です。性能も非常に良いです(台の仕様などは複数ありますので、メーカーさんのHPの物とは見た目が多少違いますが、中身は同じです)。


治療を受けた患者さんのカルテのビデオは https://youtu.be/bDR3kKkQYMw ご覧ください。


緑内障とは・・・視神経がいたんで視野が狭くなってくる病気です。いろいろな説がとなえられていますが、「眼圧がその人の神経が耐えられる値よりも高いために、視神経がいたむ」と考えられています。すなわち、眼圧が低い人でも、視神経がそれに耐えられないぐらい弱ければ神経がいたんでくるわけです。

●以前の治療の流れは

眼圧を下げるために点眼薬を処方し、それでも視野が進行するなら2剤目の点眼薬を処方し、それでも視野が進行するならば3剤目の点眼薬を処方し、それでも視野が進行するならば手術(トラベクロトミー、トラベクレクトミー)を施行していました。内服薬は、副作用があるので処方しないのが一般的です(副作用が出ない人は内服も有効です)。

●以前からある手術の難点は

トラベクロトミーは、眼内の水(房水)の流出路である「線維柱帯」を切開して房水の排出を良くして眼圧を下げる手術
トラベクレクトミーは、眼外に房水を出し続ける穴をあけて眼圧を下げる手術です。

この手術にも習熟しておりますが、難点は、人間の体には切開した部分やあけた穴を治そうとする力があるので、術後の効果が不安定な事です。また、トラベクロトミーは眼内出血が必ずおこりますので、その血がつまって一時的に眼圧が上がります。トラベクレクトミーは、眼外と眼内をつなげる穴をあけるため、眼外から細菌が眼内に入り、失明に至ることもあります。しかし、手術は眼圧を下げる効果の高い良い治療法なので、それらのリスクを犯してでも手術する必要のある患者さんが受けるわけです。

●以前のレーザー(argon laser trabeculoplasty 略してALT)とは

線維柱帯をレーザーの熱で焼いて流出抵抗とjなる細胞を減少さすことにより房水の通りを良くしたり、線維柱帯のそばをレーザーで焼いて、そこを収縮さすことによって、線維柱帯を拡げて流出をよくしたりする治療法です。うまい先生が施行すると効果的な方法ではありますが、効果の持続が短いのが難点と言われています。また、何度も施行すると線維柱帯の構造を破壊してしまうとも言われています。

●選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty 略してSLT)とは

特殊なレーザーで、眼内の水(房水)の流出路である線維柱帯で水の流出の抵抗となっている色素細胞をレーザーでつぶして減らし、房水の流出を助け、眼圧を下げる最新の方法です。じゃまな細胞のみを選択的につぶしてくれるわけです。

レーザー治療なので、切らないので外来での治療が可能です。治療後すぐに普通の生活が可能です。正直、昔から考えると夢のような治療法で、それを知った時に非常に強い興奮を覚え、高い眼圧降下力を確認し、高額な機械ですが、迷わず導入いたしました。

理論的にはすべての患者さんに永続的な効果を期待できます。それと、副作用(治療後の一過性の眼圧上昇)が非常に少ないのが魅力的です。

眼圧が高ければ高いほど効果が高いですが、正常眼圧緑内障の患者さんでも多くの場合、2とか3mmHgの降下が得られます。この効果は正常眼圧の患者さんにとっては非常に大きいです。また、正常眼圧緑内障の場合、夜中に眼圧が上がって、そのために視野が悪化している人もいるでしょう。そういう人に対しては、夜中の眼圧上昇を抑えてくれることが期待できます。

もちろん治療なのですべての人に効くということはありませんが、副作用のまずないので、気楽に受けていただける治療法と考えております。通常、治療の1ヵ月後ぐらいから効果が出てくる場合が多いです。

また、治療後、治療のあとが全く残りませんので、他の病院で長く一人の先生に診ていただいていて、その先生との関係を大切にしたい患者さんでも、受けたあとがわかりませんので、黙っていればその先生の気分を害する事もありません。

初診日、即日治療をやっておりますが、治療後の眼圧チェックなどもありますので、即日治療をご希望の方は遅くとも3時までには受付を済ましてください。費用は片眼につき、1割負担で初診料込みで1万円程度、3割負担で3万円弱です。眼圧にお悩みの方、緑内障で視野の悪化にお悩みの方は、ぜひお試し下さい。


SLTに興味のある患者さんからよくある質問です。


Q SLTはほんとうに効くのですか? SLTは効かないので受ける価値なしという説を唱えている眼科の先生がいます。

A 効く人には効きます。効かない人には効きません。

Q なぜそのように意見の食い違いがあるのですか?

A 私は、実際に自分でやって検証しているから、間違いようがありません。効かないという説があまりにばかばかしいので、SLTは効かないと言っている先生は、自分でやったことないか、機械が悪いか、腕が悪いか、どれかに違いないとしか思えないです。強いて言えば、「もともと10代前半のような高くない眼圧の人にはあんまり効かない事が多い」です。それは「効かないので受ける価値なし」とはものすごい違いだと思います。

自分が嘘を言ってると思われないように、以下にSLTを受けた患者さんのカルテを示しておきます。私が正しいか、効かないと言っている先生が正しいか、あとはみなさんのご判断にお任せします。

Q 私にはSLTは効くでしょうか?

A やってみないとわかりません。お薬、手術、なんでもやっぱりそうだと思います。

余談ですが、SLTに関係なく、

「絶対効くならやってください」
「絶対効くとは限りません」
「だったら受けません!」

と言って怒って帰る人もたまにいます。そういう人には、世界中どこの先生もまともに治療してくれないですし、見ているとけっきょく徐々に不幸な方向に行きます。「最善の治療をやってもらって、それでもだめなら仕方がない」と思えた人が幸せになれる人です。

●患者さんのカルテです。個人情報に配慮して、個人を特定できる可能性のある部分は削除しています。

↓Vd=右の視力、Vs=左の視力、NT=機械で測った眼圧。AT=医師が手で測った眼圧。ともに右/左の順で記載。手で測ると測定医師によってばらつきがあるため、私は機械での値を重視しています。医師が手で測る方が正確と言う先生もいますが、古く感じます。うちが使っているような最新の機械はそんな甘くはないです。手で測るよりずっとすごいです。

総合病院で、重度のぶどう膜炎、白内障、緑内障でfollowされていた。どんどん悪化する事に不安を覚え、平成○○年1月30日当院初診。両眼とも末期の緑内障。両眼ともひどい白内障。

右はすでに失明寸前。点眼継続以外に特に出来ることなしと判断した(眼圧が8。この時点ですでに視野は測定不能。目は末期になると、元気がなくなって眼圧が下がってきます。この状態で白内障とか緑内障の手術をすると、手術中に終了を迎えますので、点眼以外どうしようもない)。

左は視力0.04。3回測定の眼圧平均値38.7mmHg。初診時に点眼をよく吟味し、少し変更。奇跡的に10台に下がれば様子見、下がらなければ、いかなる手術にはもう耐えられないと判定し、SLTという方針で。



↓2月1日、薬の工夫により左眼圧が下がっている。しかし、あいかわらず高いので、左のSLT施行。2月3日、左眼圧23.3。2月10日、左眼圧14。効果ばっちりだが、3月29日、左眼圧21.7。普通は様子見だが、この方の場合は待ったなしなので、

↓即日SLT追加。その後、ずっと低い値を保っている。もしSLTがなければ、2月中ぐらいには両眼とも失明していただろう。








平成○○年5月以降、本人入院のために来院できなくなりました。

うちに来て、SLTを受けたおかげで、患者さんやの家族はたいへん助かったと思います。私も、すべての人にSLTが効きますとは申しません。しかし、このカルテを見て、SLTは効く人にはとても効くし、それが本人と家族を助けることもあるということをご理解いただければ幸いです。


mail: otaka@isao.com

西伊豆眼科クリニック トップページへ